クエスト中に手に入る日記の一覧


備考
秘譚オリムクエスト完了後に取得できる報償箱の中に入っている18種類の日記。
全部で18枚あり、公式サイトのストーリー漫画の内容に沿っている。



6月14日(1枚目)

 奇妙な形の様々な壺が棚の上に並べられてあった。ほこりをかぶっていないところからすると、誰かがきちんと管理しているようだ。
 近寄って壺を触ってみたところ、どこからともなく奇妙な感じと共に恐怖が襲ってきた。それでも、中身が何なのか気になってしょうがなかった。そこで [シールド] 魔法をかけてみた。そして念のため、[キュア ポイズン]、[リムーブ カーズ]などの魔法も用意しておいた。
 [シールド] の影響だろうか。目の前が若干曇って恐怖感は幾分和らいだ。しかし、緊張を解くことはできない。息を殺しておそるおそる近寄ってみたところ、壺には解読できない記号がふられていた。
 記号自体もそのパターンも単純で、経験則から表記されているのは固有名詞と時期であろうということは推測できた。しかし、暗号の表記のしかたは今まで見たことのないもので、意味を分析できるほど標本が多いわけでもなかった。
 記号のいくつかを目に焼き付けて、足早にその場を立ち去った。もしかして壺の中身は単にパンに塗るジャムだったりして。そんな想像をしつつ、記号の分析をやってみることにした。
 記号が意味するところが解明できれば、先生も俺のことを認めてくださるんじゃないだろうか。

6月16日(2/18)

 新しくやってきた司祭の [メルキオール]。線が細い。言葉を慎む。そして、プライドが高い。外見も雰囲気もハーディンの劣化コピー。感情を表に出さず、相手を見る目はどこかうつろ。かなりムカつくやつだ。
 [メルキオール]…歳は俺とそう変わらないくせして…お前みたいなつまんないやつには、ヤキ入れてやる!
 [カスパー]、[バルタザール]、[セマ]、そして俺の4人はそそくさと夕食を済ませてアジトに集まり、[メルキオール] にどうやってヤキを入れるかについて話し合った。
 それで出したアイデアは、[魔法書の文字を入れ替えておくこと]。う〜ん、俺ってもしかして天才かも?これでやつも泣きを見るぞ。他の友達の意見はどうだろう。次の打ち合わせの日が楽しみ!
 でも…先生はそんなに簡単に弟子を取る方だったっけなぁ。

8月9日(3/18)

 今日は打ち合わせの日。
 [カスパー] は明日使う [魔力の石] に傷をつけておこうって、やばいことを言い出した。[バルタザール] は 椅子の脚に切れ目を入れてずっこけさせるって。単純すぎる。[セマ] は自分の得意な [チル タッチ] を使ってビビらせると。恐ろしいこと考えるなぁ。
 いろいろ考えて、結局こうすることに。[セマ] が [メルキオール] の気をひきつける。その間にみんなアイデア通りの攻撃をしかける。
 俺のはすぐに終わりそうだ。他の二人は一生懸命準備している。ご苦労さんなこった。[カスパー] は意味のある傷にしたいのか、どういうデザインにしようかと相談してきた。そこで俺は、以前見かけたワケありっぽい記号を教えてやった。
 窓の外からは [セマ] の猫なで声が聞こえてくる。[メルキオール] のやつは上から目線で [セマ] にクドクド言って悦に入ってるようだ。
 [メルキオール!]、[セマ] や俺たちにえらそうにできるのも今のうちだぜ。せいぜい楽しめ!

6月21日(4/18)

 2段階魔法の練習テーマを決めた。計画通り、[メルキオール] に [カーズ ポイズン] の担当を引き受けさせた。
 夕飯時、先生はいつものように練習した魔法を披露する機会をくださった。[ファイアー ボルト] 魔法の正確さを高める練習では火花のやりとりをした。途中に [バルタザール] さえ絡んでこなければ、完璧にできたのに!
 [ファイアー ボルト] で火だるまになって転げまわる [バルタザール]。まあ、いつものことだと涼しい顔の先生。でも、俺たちは笑いを堪えられなかった。先生の冷たい視線が突き刺さる。その視線は俺たちだけではなく、せせら笑っている [メルキオール] にも向けられていた。
 [メルキオール!] 明日笑うのはさーてどっちかな?こりゃ楽しみだ!

6月22日(5/18)

 ここは光の届かない地下室。
 [カスパー]、[セマ] と俺は [カーズ ブラインド] の後遺症で前がよく見えないにもかかわらず、長ったらしい反省文を書かされている。俺は用紙を一枚取って、今日あった出来事について書いている。
 昨日の騒動に続いて、今日は [メルキオール] の試演の見物だ。[カスパー] は準備しておいた [魔力の石] をご機嫌でも取るかのように [メルキオール] に手渡した。[カーズ ポイズン] の対象は [バルタザール] が自ら買って出た。
 [バルタザール]のやつ、ホントに [カーズポイズン] が好きなんだな。ずっとニヤニヤしてやがる。そのへんを知らなければ、あやしいことこの上ないだろう。誰からも疑われなかったのは運がよかった。
 でも…
 俺の傑作、[メルキオール] のデタラメな呪文と謎の記号が彫られた [魔力の石] のおかげで、謎の記号が [バルタザール] を照らすだけで、何の変化も起こらなかった。先生は緊張した面持ちで中止命令を下された。でも…先生の話が終わる前に、次の準備をしてた [セマ] の [チル タッチ] が [メルキオール] 目がけて飛んでいった。[メルキオール] の椅子の脚の仕込みをすっかり忘れていた [セマ] のせいで [バルタザール] が [チル タッチ] の餌食となった。
 問題がそれで終わったならば、今俺たちがこんな風に反省文を書かされることもなかったろうに…
 [チル タッチ] の影響を受けてか、[バルタザール] を照らしていた記号が赤く光って [バルタザール] の生体エネルギーを吸い込みだした。おびえた俺たちに先生は喝を入れるように [カーズ ブラインド] をかけて、ものすごいスピードで呪文を唱え始めた。それはあたかも大勢の人が同時に呪文を唱えているかのように聞こえた。
 目の前で誰かに睨みつけられているような感覚に陥った。俺たちは何もできずにその場でひたすら凍りついていた。
 強烈な恐怖感と冷気が頭の芯からようやく消えつつあった。先生の声はようやく一人の声になった。安堵感と恐怖感、そして [バルタザール] への罪悪感が一度に押し寄せてきた。ちょうどその時、何らかの物体が意味のわからないことをつぶやきつつ、俺のそばを通り過ぎた。
 当然のことながら、先生はご立腹だった。怒りのこもった低い声であまり心配するなとおっしゃって、 [バルタザール] をどこかに連れて行かれた。そして、俺たちは今反省文を書かされている…
 まだ [セマ] と [カスパー] のやつは泣いてやがる。反省文が涙でにじんでいる。俺は恐怖からまだ覚めやらないまま、今日あったできごとをしたためている。
 [バルタザール]、悪かった。死ぬなよ…お前が死んだら俺はどうしたら… [バルタザール!]

6月25日(6/18)

 今日は先生との面談の日。
 [カスパー] と [セマ] のやつ、部屋から泣きながら出てきた。何の話も聞けなかった。しょうがないやつらだ。
 ついに俺の番だ…
 先生の視線のあまりもの厳しさに心臓がえぐり取られる思いをした。他の司祭からも状況説明を聞いたのか、質問というよりは確認に近いやりとりをした。そして最後に聞かれた。あの記号はどこで知ったのかと。
 俺はすべてを打ち明けて許しを請おうとしたけど、大事件を起こしたところに記号のことまで告白する勇気が出なかった。奇妙なところにあった変な形の壺に描かれていたものだと。
 それで、むかし家で起こったとある事件の後に見た悪夢に出てきた記号だとウソをついた。先生は俺の言ったことが本当かと確かめもせず、他に言うことはあるかと聞かれた。俺は [バルタザール] と [メルキオール] の容態のことを聞いた。
 [バルタザール] はしばらく休養が必要とのこと。[メルキオール] は激しい脳震盪を起こしてまだ意識が戻っていないが、もうそろそろ意識を取り戻すだろうと。それを聞いて安堵の溜息をついた。あいさつをして部屋を出ようとした瞬間、突然先生はこうおっしゃった。
 「[オリム]、あの記号の正体が気にはならないか。」
 その瞬間、冷や汗が出た。ウソがばれたと感じた。観念してすべてを告白しようとしたが、先生は静かに手の平を上げて俺の話を遮った。
 「あの記号は、[死] に関連がある記号だ。どれだけ危険なことかわかっているのか!もう行け!」
 さっきの二人はどうか知らないけど、[バルタザール] と [メルキオール] への罪悪感、二人の無事を聞いての安堵感、先生への申し訳なさでドアを開けた瞬間、涙が頬を伝った。

7月5日(7/18)

 [バルタザール] の療養が終わった。以前より若干ふっくらしたようだった。とんでもないことを体験したとは思えないほどだった。心配して損した!と思って、またいたずらをしようと [バルタザール] に駆け寄った瞬間、[バルタザール] は目で自分の後ろを見ろと言った。
 ふっくらした [バルタザール] の後ろには [メルキオール] が立っていた。相変わらずのウザさを発している [メルキオール]。
 でも、悪さをしたのは俺たちだ。[メルキオール] の冷たい視線も甘んじて受けるしかない。
 「[メルキオール]、悪かった。何でもお前の言うとおりにするよ…」
 俺たちは主人の前に立たされた奴隷のように縮こまって、[メルキオール] の言葉を待った。
 するとやつはあざ笑いつつ、「そりゃ、楽しみだな。」と一言。プライドも何もズタズタだ。ふう…先生に [ヒール] かけてくれって頼もうかなぁ…

7月17日(8/18)

 昨日の夢の意味は何なんだろうか…
 謎の記号が [セマ] と [カスパー] と [バルタザール] の体を飲み込んだ。俺は記号から逃れようと必死で、振り返る余裕すらなかった。
 どこかわからない迷路をさまよっていたところ、地下に降りる道を見つけてそこに身を隠した。そそくさと蓋を閉じて、階段の影に隠れて蓋の隙間から外をのぞき見ていた。俺を追ってきた記号と他の記号にとりつかれた[セマ]、[カスパー]、[バルタザール]が俺を探してあたりをキョロキョロ見回しているのが見えた。
 身を守る魔法が何かすら思いつかない。俺はひたすら体を縮めて、やつらが早く通り過ぎることだけを待っていた。期待が通じたのか、やつらは慌ててどこかへと消えた。
 安堵のため息をついて上を見上げた瞬間!視線の先には記号がいた。目線が合った。心臓が止まりそうだった。体はかなしばりにあったように動かない。「なんで俺を!うあああっ!」そう叫びたかったけど、声すら出なかった。しかし、どうしたことか記号は不思議な微笑を浮かべて何やら意味不明なことを口ずさむと、他の司祭とともにどこかへと消えた。
 あまりの驚きに目が覚めた。再び眠りにつけないまま朝を迎えた。

7月18日(9/18)

 朝。食卓について司祭たちの顔に目をやると、昨日の夢で見た記号と重なって見えた。
 [メルキオール] は俺たちと一緒にいたくないのか、パンを一切れ取ってそそくさと部屋に入ってしまった。
 パンにジャムを塗っている最中に、[カスパー] が椅子を後ろに引いた。[バルタザール] の持っていたパンは [セマ] の顔に。[カスパー] と [バルタザール] の顔にもジャムをたっぷり塗ったパンが直撃。この場で無傷なのは俺と先生だけ。
 そりゃまあ当然だけど、やつらは仕返ししようと俺に飛びかかろうとした。俺は昨日の夢より早く逃げた。
 「うーん、昨日の夢は予知夢だったのかなぁ…」
 先生の怒鳴り声でその場は収まった。先生は氷のような冷たい微笑を浮かべながら俺を見つめていた。

8月5日(10/18)

 かっこいい服を来た人々が先生を訪ねてきた。アデン王国から来たという彼らはフードのついた旅行服に、青い魔法が見え隠れするアーマーを装着していた。ソードにはものすごい魔法の力が込められていて、鞘に入れなければ前が見えなくなるほど目映ゆい光を放っていた。
 「俺もあんな大人になりたいなぁ…」
 未来に対する漠然とした期待が、少しずつ形のあるものになりつつあるような感じがした。
 人々が帰った後、先生はいつもより口数も減って、何かを悩んでいるようだった。いったい何があったんだろう。

8月8日(11/18)

 夕食の時間。先生はみんなに集まるようにおっしゃった。いつものようにパンだけ手に取って立ち去ろうとしていた [メルキオール] だけは不満げな表情。他のみんなはいつものことだと平然としていた。先生は、[ケレニス] に関する情報を集めるためにメインランドに行くとおっしゃった。
 そうか、[ケレニス] か…
 心の苦痛から抜け出すために、俺たちは示し合わせたかのように彼女のことを語ろうとしなかった。先生も語らなかったけど、心の中では大きなしこりとなっていたようだ。自分の責任が大きいと自らを責めていたんだろう。
 昨日の来客のことを聞きたかったけど、先生は先日の危険な火遊びの話を持ち出して、あんなことをしたら次はもう誰も助けてはくれないとおっしゃった。俺たちはぐうの音も出なかった。
 最後に先生は、お前たちはここに残ってもいいし、ここから出て自分の道を歩んでもいい、それはお前たちの自由だとおっしゃった。それを俺たちは事実上の卒業と受け取った。 [メルキオール] は不気味な笑いを浮かべて俺たちの方を見た。ムカつく!でも、それを表に出してはいけない空気だってことは [カスパー] も [バルタザール] も [セマ] もわかっているようだった。

8月9日(12/18)

 先生のいない生活1日目。
 昼休みもとうに過ぎたころ。あたりの騒音で目を覚ました俺たちは驚くべき光景を目撃した。広場には血まみれの [オーク] の死体の山。[メルキオール] は残りの [オーク] たちに向かって相当な威力の [ウィンド カッター] を詠唱しつづけていた。自体の深刻さもさることながら、凄惨な光景に目撃した [セマ] は吐き気をもよおしてトイレに走っていった。[カスパー] と [バルタザール] は別の意味で不快な表情を浮かべていた。
 「[メルキオール]…ありがたいんだけど…お前の能力がすごいのもわかるんだけど…他に方法はなかったのか。」
 遅い昼食を取りに集まった。[メルキオール] は自然と先生の席に座った。俺たちはそんな [メルキオール] に不満を言うことはもちろん、少し前に目にした状況が脳裏に浮かんで食事が喉を通らなかった。
 [メルキオール] は何事もなかったかのように普段どおりの様子だった。この現実をどう受け入れればいいのか。事態の深刻さに気づいた俺たちは、明日集まって対策会議を開くことにした。ひとまず、今晩は [カスパー] が寝ずの番につくことにした。

8月10日(13/18)

 [メルキオール] は俺たちとからむつもりはハナからないようだ。ひたすら一人で何かをしている。俺たちは静かなところに集まって会議を始めた。[セマ] は [メルキオール] の残忍さにやつを追い出せと強く言った。[カスパー] は特に意見がないようだったが、その表情から [セマ] の意見に同意していることが読み取れた。
 [バルタザール] は [オーク] たちがかわいそうだ、なんであんなひどいことを!と言いつつひたすらため息をついていた。でも、ポイントはそこじゃない。今まではおとなしかった [オーク] がなぜ急に攻撃的になったんだろう。
 以前にも [ケレニス] のいたずらで [オーク] が攻撃的になったことはあったが、それは森で出くわした時の威嚇に過ぎなかった。
 先生がいらっしゃらなくなったから、俺たちをナメてるのだろうか。それとも、この島で何らかの変化が起きているのだろうか。

8月11日(14/18)

 先生のいない生活3日目。
 風のない一日だった。目にも留まらぬ速さで動いていた風の精霊たちも今日は木の枝に腰掛けてウトウトと居眠り。[メルキオール] の [ウィンド カッター] ももはや脅威ではない。
 俺たちは一度に一つの対象しか攻撃できない魔法はもはや価値がないと判断して、まだ練習したこのとない3段階魔法の [ライトニング] と [フローズン クラウド] を使って、俺たちを攻撃してくる敵に対処せざるをえなかった。訳もわからないまま、昼は柵を越えてくる [オーク] と戦い、夜には [ゾンビ] を相手にしなければならなかった。
 俺たちは二交代で寝ずの番についた。突然やってきた混乱に対処するのに必死で、現状を理解して分析する余裕はなかった。ただ、ちゃんと習ってもいない3段階魔法の腕が見る見るうちに上がっていくことに驚くだけだった。しかし、そんな驚きと自己満足に浸る余裕は、生き残るまでお預けだ。

8月12日(15/18)

 先生のいない生活4日目。
 マナの回復量が消耗量に追いつかなくなった。いきなり生死の岐路に立たされて、3段階魔法の一部を自然と習得したけど、マナを効果的に使う方法までは手がまわらなかった。もはやこれまでかと自暴自棄になっていたその時、救世主が現れた。[ハーディン] 先生とは古くからの知人だと言う彼は、広場に累々と積み重ねられた死体でアンデッド軍団を作って俺たちを助けてくれた。
 禁じられている黒魔法を平然と使う彼のことを信用できなかったが、そんな贅沢なことを言える状況ではなかった。まあ、 [セマ] は [チル タッチ] を平然と使ってるしなぁ…
 口数の多くない彼の感じからして、先生の古くからの知人と言ってもさほど変には思わなかったが、得体のしれない違和感はぬぐいきれなかった。
 「どうして、先生のいらっしゃらない時に来たんだろうか。」
 「どうして俺たちが困っている今、訪ねてきたんだろうか。」
 「どうして、俺達の目の前で平然と黒魔術を使うんだろうか。」
 「なんでなんだろう…」
 浮かんでは消える疑問の数々。でも、今はそれを深く考えている余裕なんてない…
 あのウィザードが俺たちを守ってくれなかったり、俺たちを傷つけたりするとしても、もはや自分の力で自分を守ることすらできない。もうどうにでもなれという心情で眠りについた。

8月13日(16/18)

 先生のいない生活5日目。
 すべてをあきらめて楽な気持ちで眠りにつこうとしたが、モンスターの悲鳴とアンデッドの靭帯と筋肉のちぎれる音が耳をふさいでも聞こえてきた。でも、そんな苦痛ですら、俺達を安眠から遠ざけることはできなかった。
 目が覚めたらもう夕方になっていた。手足は自分の意志どおりに動くのか、周りの風景は変わっていないのか。それを確かめるや、激しい空腹感が襲ってきた。
 「ようやく気力が回復したのかな…」
 夜通し聞かされたアンデッドの声に慣らされたのか、時々ギシギシ言う音以外は特に何も感じなくなっていた。[セマ] は相変らず不快に感じているようだが、未だに生きていることには感謝しているようだ。
 「気力を取り戻したら、交替しよう。」
 [メルキオール] は普段とは違って積極的に俺たちをリードした。ドアを開けたその瞬間!あまりの光景に言葉を失った。
 「どこもかしもアンデッドだらけじゃんかよ…」
 森のモンスターすべてがアンデッドになったのかと思うほどものすごい規模だった。やつらの半分は周囲に転がっていた道具で穴を掘っていた。その中に入っているやつもいた。さらにそこに土をかけるやつもいた。
 気持ちがいいほどきれいに片付けられてはいたけど…それはそれで気味の悪い光景だった。
 名も知らぬウィザードは、夕陽に背を向けて屋根の上でずっと呪文を唱えていた。俺たちは家の中に戻った。目の前で起きていることを理解して整理する時間が必要だった。

8月14日(17/18)

 先生のいない生活6日目。
 モンスターの攻撃はまばらになったようだ。アンデッド軍団もそれほどの人員が必要なくなったのか、ほとんどはどこかに消えた。でも…もしかして俺達の足元でうごめいているかも知れない。
 それはともかく、このようなことがまた起こることを望まないのはもちろんだが、たとえ繰り返されるとしても、最も合理的な選択で自分自身を守れるようにならなければいけないと言う点でみんな同意した。
 大規模な攻撃をしかけられたら、力での対応よりはひとまず退くことが最も適切だ、戦うのは瀬戸際まで追い詰められたら時だというのが俺の意見。もちろん、退くことすらままならない状況には陥らないようにはすべきだが…
 次々に襲ってくるショックな事実に冷静さを失うかも知れない。そう考えて、今日の会議はここまでにして、残りは各自心を落ち着ける時間にすることにした。
 先生とは長年の知人だと言うくだんのウィザードは、アンデッド軍団の処理のために穴掘りを続けていた。自分が実際に体を動かすわけではないとはいえ、数日間昼夜問わずに働ける精神力には驚くばかりだ。俺たちはまだ伝えていなかった感謝の気持ちを伝えることにした。そして、もっと呼びやすいように、オールド フレンド オブ ハーディン、略してオールディンというニックネームで呼ぶことにした。

8月15日(18/18)

 先生のいない生活7日目。
 欲のつらが張っててチャンスに敏感なのはヒューマンだからだろうか。ウィザードだからだろうか。それとも、ヒューマンとウィザードの共通の特徴だろうか。
 [オールディン] は、自分自身を守るためには危険でも必要だと黒魔術を習うように勧めた。俺と [セマ] は正直、賛成できなかった。俺はともかく、[セマ] も反対だとは意外だった。俺の肩を持ってくれた [セマ] をありがたく思った。
 意見の対立もすぐに収まった。[メルキオール] の目は語った。「前にした約束、覚えてるよな?」って。それが俺達の心を一つにした。
 だけど、見知らぬ人を信じることがどれほど愚かなことか…俺たちの救世主だったはずの [オールディン] 。平常心を失った俺たちを襲ったのはさらなる災難だった。
 [オールディン] は気合の入った俺たちをどこかへと連れて言った。もちろん、そこはアンデッド軍団が眠る土地。土をかぶしていないところからは土壌が見えた。それは死体から流れるどす黒い死体の血の色のようだが、よくはわからなかった。土は踏み固められていなくて、一歩進むごとに足が吸い込まれるような感じがした。でも、こんな状況ではまともなところなど期待できない。[セマ] も特に不平を言わなかった。
 ようやく着いたところは、比較的地面のしっかりしているところだった。周囲は見回す価値がないほど荒れ果ていたが、俺と [ケレニス] の思い出の詰まった地だとすぐにわかった。 [オールディン] はまず基本的なことから始めようと、呪文と動作を真似るように言った。
 「akara vale de vos… mechura vie duoa…」舌がうまく回らなかったが、そんなに聞き覚えのない言語でもなかった。「この時に気づいとけばなぁ…」 唱えている間、いろんなことが脳裏をよぎった。先生の秘密の地下室で見た謎の記号、[バルタザール] の事故のあった日、耳元で聞こえた低いつぶやき…
 「ダメだ!みんな逃げろ!」
 俺はそう叫んで、[セマ] の手を握って走りだした。[セマ] は唖然とした表情だったが、抵抗せずに付いてきてくれた。アンデッド軍団が埋められていたところから無数の手が出てきて [セマ] に襲いかかるまでは…
 まずはここを抜け出すことが急務だ。そう考えた俺は [セマ] の手を握ったままでできる限り遠くに逃げようと [テレポート] した。俺たちの家の屋根に落ちて気を取り戻すまでは何が起きたのかわからなかった。そして、単なる事故だと思い込んでいた。
 でも…
 屋根の上から見る光景は… [オールディン] に裏切られた悔しさと [ハーディン] への怒りをこみ上げさせた。アンデッド軍団の掘っている穴は、やつらの墓だとばかり思っていた。でも、それは巨大な魔法陣だった。地面は夢で見た謎の記号で覆いつくされていた。そして、切られて焼き尽くされた森は、木も草も様々な意味の魔方陣の形にされていた。
 「先生、あなたはいったい何をしていたんですか!」
 「[オールディン]、お前の正体は何だ!」
 そこで [セマ] がいないことに気づいた。どうしよう!
 「[セマ!]、どこにいるんだ!」
 あたりを見回して俺たちを使って謎の儀式をやったところに目をやると、地面から這い出た無数の手にひきずられて行く [セマ] の姿が目に入った。
 うわああ!それを黙って見ているしかない自分の無能さが悔しくて悲しくて涙が止まらなかった。そして俺はいつしか、船着場に向けて走りだしていた。
 「みんなを救うには、先生に会うしか他にない!」
 出港直前のメインランド行きの船に飛び乗った。かなり沖まで来てようやく冷静さを取り戻して、この文章を書いている。水平線上の1本の線のように見える [話せる島] を眺めつつ、[セマ]、[カスパー]、[バルタザール]、[メルキオール] の無事を祈った。その瞬間、幾筋もの赤い光が天を突き刺した!細いのもあれば太いのもある。長くなったり短くなったりを繰り返しているうちに、夢で見た記号の形になった。
 「ええっ!これは!」
 俺は瞬時に欄干の影に身を隠した。見つからないように祈りつつ、隙間から外の様子を覗いていた。すると記号と目が合った。
 夢で見た恐怖と絶望そのものだ。夢で経験済みなのが幸いしてか、俺は冷静さを保とうと努力できた。自分を褒めたくなった。でも、それもはるか遠くから [バフォメット] の泣き叫ぶ声が聞こえるまで…
 「ダメだ!こんなの、ありえない!」 俺にはまだやり残したことがあるんだ!先生![ケレニス!]、どこにいるんだ!